「ったく、ガキのおもりなんてやってられねーですぅ…」
タママは、ちびっ子ギャングから解放され、ケロン軍本部廊下をとぼとぼ歩いていた。
事の発端は、タルルがまた余計な事を言ってしまったゆえのとばっちりだ。
仕方なくケロン星へ帰還した後、幼年訓練所へ向ったのだが…。
質問攻めに遭うは、タママインパクトはどうやったら出来るのかとか。
果ては大佐になるのは時間の問題でしょ?等、ギリギリの事を言われる。
「タルルのヤツ、面倒事を押しつけてどこほっつき歩いてやがんだよ!」
「タルル上等兵は本日、別部隊に一時編入、任務に向ったよ?」
「そーだったですかぁ、てっきりアイツ、とんずらぶっこいて……え?」
タママは、タルルの内情をすらすらと答える主を振り返った。
紫の体色、ギロロとは逆位置に着けられたベルト、黄色いゴーグル。
一瞬、叫びだしそうになるのを何とか堪え、タママはぎこちなく敬礼をする。
「中尉さんっ…いつからそこに?あぁ、じゃなくて、えーっと、えーっと」
「ハハハッ、楽にしたまえタママ君、俺は今休暇中の身だ」
最悪だ、幼年組に続き、今度はそれ以上に厄介な相手に掴まった。
ガルル中尉――。
タルルの上司にして、ギロロの実兄であり、ケロン軍最高精度スナイパー。
ケロロ曰く、間が持たないらしいが、タママも同じ気持ちだった。
「あ、じゃあ、中尉さんの休暇をお邪魔しちゃ悪いので、し、失礼するですぅ…」
「待ちたまえ」
(ひぃっ!何で呼び止めるですぅ〜?)
相変わらず表情の読めないガルルに、タママは再びガッチガチに硬くなる。
一体、ガルルから何を言われるのか見当が付かない。
そして、タメにタメた後、ガルルが発したのは…。
「先輩と呼びなさい」
「はい?」
「ギロロには先輩と言っているだろう?ならば俺もそう呼びたまえ」
「は、…えっ?」
何か悪いモノでも拾い食い…いや、ガルルがおかしくなったのかと思った。
いきなり、先輩と呼べなど、どう言うつもりなのか?
でも、このまま何もしないままでは、いつまでたっても逃れられない。
タママは、引きつった笑みで言う。
「えっと、せ、先輩…?」
「名前を言わなければ、どの先輩に対して言っているのだい?」
嫌な言い方だ。
確かにそうかもしれないが、と思いながらもタママは言い渋る。
が、意を決して半ば叫ぶように言った。
「〜〜〜…っ!…ガルル先輩っ」
一体何の罰ゲームだ、責苦だ、拷問だと思いながら、タママはやけくそだった。
それもこれも、タルルが余計な事をしたゆえケロンへ帰還せざるを得なくなった所為?
いや、それとも本部でこのひとに会ったのが、そもそもの災難だったのだろうか?
そして、あれ程「先輩」と呼ばせた本人は、何故か下向き加減でカタカタと震えている。
(何か悪い事しちゃったですかぁ〜〜〜っ!?)
「………良い」
「はいっ!?」
「君の様な可愛い子に"先輩"と呼ばれるのは、実に良いね」
「そ、そうですかぁ〜…」
ドッと疲れが押し寄せるなか、タママはもう良いだろうと、ガルルの前から去ろうとした。
宇宙ステーションの時間もある事だし、何だかんだ理由をつけて。
今度こそ逃れられる、と思ったその時、ガルルに腕を掴まれ引き寄せられる。
「時にタママ君は、甘い物が好きだったね?」
「そうですけど、一体なん……っ」
一体何でそんな事を聞くですぅ?という質問は永遠に紡がれる事は無かった。
何故ならこの時、タママはガルルによって強引に口を塞がれた。
こんないつ誰と遭遇するか知れぬ場所で、よりにもよってガルルに口付けられ…。
「……ん?」
「俺のお気に入りの飴でね、良かったら上げよう」
何も口移しで上げる事は無いだろう。
と、思いながら、包装された真新しい飴玉を数個受け取ると、タママはお礼を言う。
よく見れば、ケロン星の高級菓子メーカーの飴。
色々ありすぎてポカンとしていたタママだが、ガルルが去った後、頬が熱くなるのを感じる。
それは苛立ちだったのか、はたまた羞恥だったのか解らない。
一つ言えるとしたら…
ペコポンに戻って直ぐの事。
ケロロが洗濯物を取り込んで、その横でギロロがいつもの様に銃を磨いている。
いつもの日常風景に、拗ねた様子のタママが口を開く。
「しばらく伍長さんの事"先輩"って呼びたくないですぅ!!」
意味深なタママの叫び。
言われた本人とその上官は、タママが去った後、首を傾げた。
しかし、一週間後には何事もなく普通のタママに戻っていた。
西澤邸タママの部屋に、新たに加わったお気に入りのお菓子。
綺麗な装飾の飴缶が、その答えか?
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